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プラスチックごみ削減に向け、京都府亀岡市が1月、小売店でのプラ製レジ袋の提供を禁止する全国初の条例を施行してから3カ月がたった。買い物への「マイバッグ」持参率は98%に上り、レジ袋を受け取らない新たな生活スタイルが市民の間に定着しつつある。環境への意識が高まった市では今後、ペットボトル削減を目指した「マイボトル」普及も計画。「環境先進都市」の実現に向けて着々と進んでいる。
6月以降は罰則も
亀岡市中心部にあるスーパーマツモト荒塚店。会計を終えた買い物客らが次々とマイバッグを取り出し、購入した食料品や日常品を詰め込んでいく。
「慣れると案外、不便を感じないですね」。こう話すのは、条例施行後から本格的にマイバッグを活用し始めたパートの村山愛世(あきよ)さん(36)。今では数種類の大きさを持ち歩く。市外で買い物する際もレジ袋を受け取らなくなり、「環境に優しく、良い取り組み」と理解を示す。
条例は、市内の小売店やコンビニエンスストアなど全事業者が対象で、プラ製レジ袋の提供を有償無償にかかわらず禁じている。代わりとなる紙袋などの有料化も義務付けられ、6月以降は、市の立ち入り調査や是正勧告に従わない店舗の事業者名を公表できる「罰則」も設けられた。
施行直後は「禁止されて不便だ」などと、市民と事業者の双方から賛否が市に寄せられたが、現在は市内に約700ある小売店の大部分が協力。マイバッグ持参も浸透し、市が主要なスーパーや商業施設を対象に実施した調査では、平成31年4月時点で53・8%だった持参率が、今年2月には98%まで上昇。条例制定に携わっていた市職員の山内剛さんは「市民の意識は着実に変わっている」と実感している。
きっかけは保津川清掃
亀岡市が条例施行に踏み切った背景には、市内を流れる保津川の存在がある。市から京都・嵐山までの自然豊かな景観が楽しめる「保津川下り」で知られるが、数十年前から川岸に漂着するプラごみの問題が深刻化。平成16年に船頭らが始めた清掃活動をきっかけに、プラごみ汚染対策に取り組んできた。
30年12月には、令和12年までに使い捨てプラスチックからの脱却を目指す「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を掲げ、レジ袋有料化、最終的には提供禁止を定める条例の制定を目指した。
だが、実現までの道のりは険しく、事業者や市民との協議では「パフォーマンスでやられては困る」「時期尚早だ」と反対の声も出た。それでも対話を重ねるうちに取り組みの意義や目的が浸透し、元年8月、全国に先駆けてレジ袋有料化がスタート。2年3月には提供禁止の条例案が成立し、山内さんは「亀岡の取り組みがプラごみ問題の議論に一石を投じることができれば」と期待する。
次はマイボトルを推奨
市民の環境への意識が高まる中、市はプラごみゼロに向けた次なる目標として、ペットボトルの代わりとなるマイボトルの普及にも取り組み始めた。
ペットボトル削減に向け、市役所など公共施設7カ所に水道水が飲める給水機を設置。今年度には公立小中学校にも設置場所を拡大するほか、「給水スポット」として協力してもらう飲食店も募っている。
「レジ袋やペットボトルを使わないことが当たり前になり、条例が要らなくなるのを目指すことこそが、本当の環境先進都市だ」と山内さん。亀岡市の先進的な取り組みには、これからも注目が集まりそうだ。
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レジ袋やストローといった使い捨てプラスチック製品による海洋汚染は世界的な問題で、各国で脱プラに向けた議論や規制が進められている。
海洋プラごみをめぐっては、2016年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、毎年少なくとも800万トン分のプラスチックが海に流出し、対策を取らなければ、50年までに海に生息する魚の総重量を超えると予測する報告書が発表された。
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」には、17の目標を達成するためのより具体的な目標「ターゲット」が169個ある。その一つにも「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む(中略)あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」ことが掲げられている。19年に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)では、海洋プラごみ問題が初めて主要議題に挙がり、50年までに海に流出するプラごみゼロを目指すビジョンが共有された。
こうした動向も踏まえ、フランスでは昨年1月からコップや皿など一部の使い捨てプラスチック製品の提供を禁止。欧州連合(EU)諸国や米国、台湾などでも同様の議論が進み、使い捨てプラスチックからの脱却を目指している。
筆者:桑村大(産経新聞)